
ハスモンヨトウ(はすもんよとう)とは、チョウ目(ちょうもく)ヤガ科(か)に属する昆虫で、学名はSpodoptera litura(スポドプテラ・リトゥラ)です。
夜間に活動するため「夜盗虫(よとうむし)」の一種に分類され、特に幼虫が農作物を加害することで深刻な農業被害を引き起こします。老齢(ろうれい)幼虫は頭部が黒く、ヨトウガとの識別において重要な特徴となっています。
幼虫は葉を集団で食害し、進行すると生育不良や収穫量の減少、場合によっては全滅に至ることもあります。主にナス科・マメ科・アブラナ科作物などを好み、農薬耐性の発達や多発生年があることから、防除の難易度は年々増しています。
同意語としては「ハスモンヨトウムシ」「ヨトウムシ類」などがあります。
ハスモンヨトウの概要
ハスモンヨトウの成虫は、体長約15〜20mmで、翅(はね)を広げた全幅は約40mmに達します。前翅には淡い褐色の斜め模様があり、これが和名の由来「斜紋(はすもん)夜盗」となっています。
成虫は夜間に活発に飛び回り、葉裏などに産卵します。1個体あたり数百個の卵をかためて産み付けることがあり、孵化(ふか)した幼虫は集団で葉を食害するため、短期間で甚大な被害をもたらします。
幼虫は5〜6齢(れい)まで成長し、成長とともに移動範囲と食害量が増大します。特に老齢幼虫は旺盛な食欲を持ち、キャベツやトマト、ナス、ブドウなど広範囲の作物に被害を及ぼします。土中で蛹(さなぎ)となり、数日から数週間後に成虫として羽化し、繁殖を繰り返します。
ハスモンヨトウの詳細説明
生態と発育
- 卵
ハスモンヨトウの卵は、成虫が葉の裏に群がって産みつけ、綿毛状の物質で覆った卵塊(らんかい)の状態で保護されます。卵塊は数百個の卵からなり、数日で孵化して幼虫が一斉にふ化・活動を始めます。
ハスモンヨトウの卵塊は直径5〜12mm(小指の爪ほどの大きさ)で綿毛に覆われ、1塊に約100〜300個の卵が含まれます。 - 幼虫
若齢幼虫は葉の表皮をかじる程度ですが、齢を重ねると葉脈を残して食べ尽くすようになります。老齢幼虫では体長30〜40mmに達し、特徴的な黒い頭部と縞模様が見られます。 - 蛹
地表下の土壌で蛹化し、10日前後で羽化します。 - 成虫
成虫は夜行性で、日中は葉陰や茂みに潜んでいます。飛翔力が強く、広範囲に拡散します。
加害の特徴
幼虫が加害する部位は主に葉ですが、被害が進行すると茎や果実、花にも及ぶことがあります。とくに若苗期の作物に被害があると、再生が難しくなるため注意が必要です。食害の跡にはフンが多数残され、葉が白変(はくへん)するなどの異常が視認されます。
被害作物と発生時期
- 野菜類:キャベツ、ハクサイ、トマト、ナス
- 豆類:ダイズ、エダマメ
- 果樹類:ブドウ、イチゴ
- その他:サトイモ、ピーマンなど
年間を通じて発生するが、特に5月〜10月の高温期に世代交代が早まり、爆発的に増殖する傾向があります。
ハスモンヨトウの課題と対策
課題1:薬剤耐性の発達
多くの化学農薬が長年使用された結果、ハスモンヨトウは複数の薬剤に耐性を持つようになっています。これにより、一般的な殺虫剤の効果が薄れることがあります。
対策:薬剤ローテーション(作用機序の異なる複数の薬剤を順番に使用)や、BT剤(バチルス・チューリンゲンシス製剤)などの微生物農薬を組み合わせた総合防除(IPM)の導入が有効です。
課題2:発見の遅れ
幼虫は日中は葉裏や地中に潜んでおり、被害が進行するまで発見が遅れることがあります。
対策:定期的な圃場の観察、フェロモントラップの設置、フンや白変葉の早期発見が有効です。被害初期での物理的除去も効果的です。
課題3:高密度な発生
一度に数百個の卵が孵化するため、発生密度が高く、防除が追いつかないケースがあります。
対策:防虫ネットや寒冷紗の利用、天敵(寄生バチ類、クモ類など)の保護、同時期作付けの回避による分散などの物理・生態的対策の併用が必要です。
まとめ
ハスモンヨトウは、野菜や果物、豆類など、いろいろな作物に影響を与えることがあります。最近の気候変動で繁殖期間が長くなり、薬剤への耐性も強くなってきているので、ただ農薬に頼るだけでなく、自然の力や新しい農業技術を活かした総合的な管理が大切になってきています。