アレロパシー(あれろぱしー)

アレロパシー(あれろぱしー)
アレロパシー

アレロパシー(あれろぱしー)とは、植物が放出する化学物質によって、周囲の植物や微生物、昆虫などに抑制的または促進的な影響を及ぼす現象です。日本語では他感作用(たかんさよう)とも呼ばれます。

農業では、緑肥(りょくひ)や被覆植物を利用した雑草抑制、輪作設計、連作障害の原因検討などに関係します。ただし、アレロパシーは特定の資材や栽培方法を示す言葉ではありません。圃場(ほじょう)で見られる雑草抑制や生育不良は、遮光、被覆、養分競合、土壌病害、微生物相、土壌水分などの影響も受けるため、アレロパシーだけを原因として判断することはできません。

植物が放出し、他の生物に影響を与える化学物質はアレロケミカル(Allelochemical)または他感物質(たかんぶっしつ)と呼ばれます。

アレロパシーの概要

アレロパシーは、植物が周囲の生物へ化学的な影響を与える現象です。影響は常に抑制的とは限らず、条件によっては発芽や生育を促進する場合もあります。

植物由来の化学物質が周囲へ移動する主な経路として、次の4つが挙げられます。

  1. 葉や茎からの浸出
    雨、露、霧などによって、植物体の成分が洗い流され、土壌や周囲の植物へ届きます。
  2. 揮発性成分の放出
    植物が放出する揮発性物質が、近くの植物や昆虫などへ影響を及ぼす場合があります。
  3. 落葉や残渣の分解
    落葉、茎葉、根などの残渣(ざんさ)が分解される過程で、化学物質や分解生成物が土壌中へ放出されます。
  4. 根からの分泌
    根から放出される成分が、根圏(こんけん)の植物、微生物、土壌環境へ影響を与えます。

同意語としては「他感作用」があります。アレロパシーに関係する化学物質は「アレロケミカル」または「他感物質」と呼ばれます。

アレロパシーと雑草抑制の関係

農業で注目される用途の一つが、緑肥や被覆植物による雑草抑制です。ただし、雑草が減ったという結果だけで、アレロパシーが原因だと断定することはできません。

緑肥や被覆植物による雑草抑制には、主に次の要因が重なっています。

  • 遮光効果
    植物が地表を覆い、雑草の発芽や生育に必要な光を遮ります。
  • マルチ効果
    枯死した茎葉や細断した残渣が地表を覆い、雑草の発生を抑えます。
  • 養分・水分・空間の競合
    被覆植物が先に生育することで、雑草が利用できる資源が減少します。
  • アレロパシー効果
    植物が放出する化学物質や残渣の分解物が、一部の雑草の発芽や生育へ影響します。

現場では、これらを切り分けることが難しい場合があります。そのため、アレロパシーを除草剤の代替技術として過大評価せず、草種、播種時期、被覆量、土壌条件、対象雑草を確認しながら利用する必要があります。

代表的な活用例:ヘアリーベッチ

ヘアリーベッチ(Hairy Vetch、和名:ナヨクサフジ)は、マメ科の緑肥作物です。圃場を広く覆うことで光を遮り、枯死後には地表面でマルチ状になります。さらに、アレロパシー作用も雑草抑制に関与すると考えられています。

ヘアリーベッチによる雑草抑制は、アレロパシーだけによるものではありません。旺盛な生育による被覆、遮光、残渣によるマルチ効果を含む複合的な結果です。

導入前には、次の条件を確認する必要があります。

  • 播種時期
    播種が遅れると十分な生育量を確保できず、雑草抑制効果が低下する場合があります。適期は地域、標高、積雪、作型によって異なります。
  • 排水性
    ヘアリーベッチは湿害に弱いため、水田転換畑や排水不良圃場では、明渠(めいきょ)、暗渠(あんきょ)、補助暗渠などの排水対策が必要です。
  • 土壌pH
    酸性が強い土壌では生育が悪くなります。土壌診断を行い、必要に応じてpHを矯正します。
  • 根粒菌
    ヘアリーベッチはマメ科植物です。初めて導入する圃場や、長期間水田として利用されてきた圃場では、根粒菌の接種を検討します。
  • 後作の施肥量
    ヘアリーベッチは窒素供給にも関係します。後作で慣行と同量の窒素肥料を施用すると、窒素過多による品質低下や過繁茂を招く場合があります。

緑肥として栽培されるヘアリーベッチ

緑肥として利用されるヘアリーベッチ(ナヨクサフジ)

アレロパシー活性の評価方法

植物がアレロパシー活性を持つかどうかを調べるため、研究では複数の試験方法が用いられます。

  • サンドイッチ法
    落葉などの植物残渣から溶出する物質が、検定植物の幼根伸長などへ与える影響を評価する方法です。
  • Plant Box法
    植物の根から放出される物質が、検定植物の根の伸長へ与える影響を評価する方法です。
  • 圃場試験
    実際の圃場で、雑草量、被覆率、作物収量、土壌条件などを確認します。

試験室で活性が確認された植物でも、圃場で同じ効果が得られるとは限りません。圃場では気温、降雨、地温、土壌水分、土壌微生物、残渣量、対象雑草の種類などが影響します。実際の導入では、小規模な試験区を設けて確認する必要があります。

アレロパシーと連作障害

同じ作物を同じ圃場で繰り返し栽培すると、生育や収量が低下することがあります。この現象は連作障害と呼ばれます。

連作障害の原因には、土壌病害、線虫、養分の偏り、塩類集積、土壌物理性の悪化などがあります。作物由来の物質が蓄積し、自らの生育を抑える自家中毒が関係する場合もあります。

ただし、生育不良を見ただけでアレロパシーや自家中毒と判断することはできません。病害虫、根の状態、土壌分析、排水性、施肥履歴、作付履歴を確認した上で、原因を切り分ける必要があります。

緑肥をすき込む際の注意点

緑肥を土壌へすき込んだ直後に、野菜などを播種(はしゅ)・定植すると、発芽不良や初期生育の遅れが起こる場合があります。原因として、未分解の有機物、分解過程で生じる有機酸、土壌の酸素不足、窒素の一時的な変動などが考えられます。

一般的には、すき込み後に腐熟期間を設けます。目安として20~30日程度、野菜では3~4週間程度が示される場合があります。ただし、必要な期間は緑肥の種類、生育量、すき込み時期、地温、土壌水分、後作作物によって変わります。

腐熟期間だけを見て判断せず、残渣の分解状況、臭気、土壌水分、砕土状態、後作作物の播種条件も確認してください。

アレロパシー利用のメリット

  • 雑草管理を補助できる
    緑肥や被覆植物を適切に導入することで、雑草の発生量を抑え、除草作業や除草剤散布の負担を軽減できる場合があります。
  • 土壌被覆に役立つ
    地表を植物や残渣で覆うことで、土壌流亡、乾燥、泥はねなどの軽減が期待できます。
  • 輪作や土づくりへ組み込める
    緑肥の種類によっては、有機物供給、根による土壌物理性の改善、窒素供給などの効果も期待できます。

アレロパシー利用の課題と対策

  1. 課題1:圃場での効果を予測しにくい
    試験室で活性が確認された植物でも、圃場では十分な効果が出ない場合があります。雑草の種類、気温、降雨、土壌水分、播種時期、被覆量などが結果に影響します。
    対策:小規模な試験区を設け、雑草量、被覆率、作物の生育、作業時間を比較します。効果が確認できない場合は、除草剤、機械除草、防草資材などを含む別の方法と組み合わせます。

  2. 課題2:後作の発芽や初期生育へ影響する場合がある
    緑肥をすき込んだ直後は、残渣の分解過程で後作物の発芽や根の伸長が阻害される場合があります。
    対策:十分な腐熟期間を確保します。すき込み時期、生育量、地温、土壌水分を確認し、必要に応じて後作の播種日や定植日を調整します。

  3. 課題3:アレロパシー以外の要因と混同しやすい
    雑草抑制や生育不良には、遮光、競合、病害虫、塩類集積、排水不良、肥料過多なども関係します。
    対策:単一の原因へ決めつけず、土壌診断、根の観察、病害虫確認、作付履歴、施肥履歴、排水性を確認します。

典型的な誤解

  • 誤解:アレロパシー植物を植えれば、雑草が生えなくなる
    実際には、雑草の種類、播種時期、植物の生育量、被覆率などによって効果が変わります。アレロパシーだけで完全な雑草防除を期待すべきではありません。
  • 誤解:香りの強いハーブを植えれば、害虫防除になる
    忌避作用が示唆される植物はありますが、圃場で安定した防除効果が得られるかどうかは条件次第です。農薬、防虫ネット、粘着板、天敵利用などの代替として安易に扱うべきではありません。
  • 誤解:コンパニオンプランツの効果は、すべてアレロパシーで説明できる
    混植による効果には、天敵の保持、遮光、根圏微生物、養分競合、物理的な障壁などが関係します。原因をアレロパシーだけに限定することはできません。
  • 誤解:連作障害は、土壌消毒だけで解決できる
    連作障害には複数の原因があります。土壌病害ではなく、自家中毒、養分バランス、塩類集積、排水不良などが関係している場合、土壌消毒だけでは改善しません。

導入前に確認すべき項目

  • 利用目的は、雑草抑制、土づくり、窒素供給、景観維持のどれか。
  • 対象となる雑草の種類と発生時期はいつか。
  • 緑肥の播種適期と、後作の播種・定植時期が両立するか。
  • 排水不良、強酸性、塩類集積などの土壌問題がないか。
  • すき込み後に十分な腐熟期間を確保できるか。
  • 後作の施肥設計を見直す必要があるか。
  • 本圃場へ全面導入する前に、比較できる試験区を設けたか。

参照


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