しみ腐病(しみぐされびょう)

しみ腐病とは

しみ腐病(しみぐされびょう)とは、
ニンジンの根に発生する土壌病害です。

英語ではBrown blotted root rotと呼ばれます。

国内では、
Pythium sulcatumおよび
Globisporangium violaeによって発生することが確認されています。

主に収穫期に近いニンジンの直根に、
褐色~暗褐色のしみ状病斑を生じ、
商品価値を大きく低下させます。

葉に病斑が発生する病害ではありません。

また、
ニンジン根部に発生する「しみ症」すべてが
しみ腐病というわけでもありません。

フザリウム属菌による乾腐病や、
リゾクトニア菌による根腐病などでも
類似したしみ状病斑が形成されます。

しみ腐病の病原

国内で古くからニンジンしみ腐病の病原として知られているのは
Pythium sulcatumです。

1980年代に千葉県で発生したしみ腐病から本菌が分離され、
接種試験などによって病原性が確認されました。

さらに2024年には、
Globisporangium violaeも
国内のニンジンしみ腐病の病原として追加されています。

Pythium属やGlobisporangium属は、
一般的な意味でのカビとは系統的に異なる
卵菌類に含まれます。

したがって、
「フザリウム菌もニンジンしみ腐病菌である」と一括して説明するのは正確ではありません。

フザリウム属菌によって類似したしみ症状を生じる病害は、
しみ腐病とは区別して診断する必要があります。

しみ腐病の症状

夏どりニンジン

夏どりでは、
主に収穫期の直根表面に
直径3~5mm程度の円形または長円形の褐色水浸状病斑
が形成されます。

症状が進むと病斑が拡大し、
表面が軟化・腐敗する場合があります。

秋冬どりニンジン

秋冬どりでは、
直径2~3mm程度の褐色斑点を生じ、
やや陥没する場合があります。

病斑中央に
縦方向の亀裂
が形成されることもあります。

病徴は作型、品種、発生時期、土壌条件などによって変わるため、
「3~5mmの水浸状病斑だけがしみ腐病」と判断することもできません。

側根にも症状が出る

直根だけではなく、
細根や側根が褐変・腐敗し、
脱落しやすくなる場合があります。

初期には地上部に明瞭な症状が現れないため、
収穫するまで被害に気づきにくいことがあります。

「しみ腐病」と「しみ症」は同じではない

ニンジン産地では、
根に現れる褐色や黒褐色のしみ状症状を
広く「しみ症」と呼ぶ場合があります。

しかし、
しみ症は病名ではなく症状を表す言葉です。

千葉県の病害虫防除指針では、
類似したしみを生じる病害を次のように区別しています。

病害 主な病原
しみ腐病 Pythium属菌など
乾腐病 Fusarium属菌
根腐病 Rhizoctonia属菌

これらは外観だけでは区別しにくい場合があります。

「根にしみがある=しみ腐病」と診断しないでください。

多発する場合や防除しても症状が改善しない場合は、
農業試験場、普及指導機関、病害診断機関などで
病原を確認する必要があります。

発生しやすい条件

排水不良・多雨

しみ腐病は、
土壌水分が多い条件で発生しやすくなります。

国内での初期の調査では、
収穫前に長雨に遭遇すると発生が多くなることが確認されています。

農研機構が紹介するニンジン湿害試験でも、
過剰な土壌水分によって
しみ腐病などの根部障害が増加しています。

そのため、
排水対策はしみ腐病対策の基本です。

連作

ニンジンの連作圃場では、
しみ腐病の発生リスクが高くなります。

病原菌に感染した細根などが
次作の伝染源になることも報告されています。

発生圃場でニンジンを繰り返し栽培すると、
病原菌密度が高まり、
被害が慢性化する可能性があります。

収穫の遅れ

降雨が多い時期に収穫適期を過ぎて
圃場へ長期間残すことも発病リスクを高めます。

千葉県の病害虫防除指針では、
梅雨後期に発生しやすいことから
収穫時期を遅らせないことが対策として示されています。

しみ腐病の防除

圃場の排水を改善する

最も基本となる対策です。

排水不良圃場では、

  • 明渠の整備
  • 暗渠排水の確認
  • 圃場の低い部分への滞水防止
  • 耕盤や締まりの改善
  • 適切な畝立て

などによって、
根域に水が長時間滞留しない状態をつくります。

地表面だけ乾いていても、根域が過湿なら対策になりません。

降雨後に圃場内へ水が残っていないかだけでなく、
根域の排水状態まで確認します。

連作を避ける

多発圃場では
ニンジンの連作を避けます。

輪作によって病原菌密度を低下させることが期待できます。

ただし、
必要な輪作年数や有効な輪作作物は
圃場の病原菌密度や栽培条件によって異なります。

「1作休めれば完全に防げる」とは限りません。

発病残さを圃場に残さない

発病した根や感染した細根が
次作の伝染源になる可能性があります。

収穫後は、
発病した根を圃場に残さないようにします。

収穫適期を逃さない

収穫期に長雨や多湿条件が続く場合は、
収穫を不必要に遅らせないことが重要です。

特に発生履歴のある圃場では、
天候と収穫適期を確認して収穫判断を行います。

品種差を利用する

しみ腐病には品種による発生差があります。

ただし、
「抵抗性品種」と表示されていない品種まで
完全な抵抗性があると考えるべきではありません。

地域の試験結果や種苗会社の品種特性、
過去の圃場での発生履歴を参考にして選定します。

必要に応じて登録農薬を使用する

ニンジンしみ腐病には、
播種前の土壌処理などで登録されている農薬があります。

農薬登録は変更されるため、
製品名や使用量を固定情報として覚えないでください。

使用時には農林水産省の農薬登録情報提供システムまたは製品ラベルで、

  • 作物名「にんじん」
  • 適用病害「しみ腐病」
  • 使用量・希釈倍数
  • 使用時期
  • 使用回数
  • 使用方法

を確認します。

土壌消毒だけに依存しない

土壌消毒は、
病原菌密度を低減する手段の一つです。

しかし、
排水不良や連作などの発生要因をそのままにして
土壌消毒だけを繰り返す方法は適切ではありません。

排水改善、輪作、発病残さの処理、品種選定、適期収穫、必要に応じた薬剤防除を組み合わせます。

特に排水条件が悪ければ、
処理後も再び発病しやすい環境が残ります。

現行の説明で注意すべき誤解

  • 「フザリウム菌も、しみ腐病の病原菌」:不正確です。フザリウム属菌によるしみは乾腐病などとして区別されます。
  • 「しみ症=しみ腐病」:誤りです。しみ症は類似した根部症状を含む呼び方で、複数の病害が原因になります。
  • 「病葉を除去すれば防げる」:しみ腐病は根部病害であり、病葉除去を主要対策とする根拠はありません。
  • 「株間を広くして風通しを良くすれば防げる」:地上部の風通しより、根域の排水状態が重要です。
  • 「ナガイモにも同じしみ腐病が発生する」:今回確認した公的資料では、ナガイモしみ腐病という確立した病名を確認できませんでした。

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