
ながほ接ぎ(長穂接ぎ・ながほつぎ)とは、果樹栽培において太くなった枝(骨格枝)に穂木を接ぐ高度な接ぎ木技術で、老木の再生や品種転換、樹勢の回復に利用されます。特にリンゴでは、老木化や気象災害によって樹体が損傷した場合、全伐せずに一部の枝を利用して再生する手段として活用されます。
2024年の長野県中野市では、カラマツの枝折れによって多数のリンゴ園で被害が出ましたが、そのような災害後の回復手段として、ながほ接ぎは実用的です。
既存の台木を活かしつつ新しい品種へ更新することが可能で、園地全体の再整備や再出発を促す方法として、持続的な果樹経営を支えています。
同意語としては、「大枝接ぎ」「太枝接ぎ」などがあります。
ながほ接ぎの概要
ながほ接ぎは、古くから果樹農家に受け継がれてきた枝接ぎの一手法です。通常の接ぎ木が若木や苗木に対して行われるのに対し、この方法は太枝、特に主枝や亜主枝に穂木を接ぐため、1本の樹を活かしたまま品種転換や回復措置を図ることが可能です。
栽培面積が限られ、長期的な園地運営が求められる日本の果樹経営において、資源を有効活用する手段として重要視されています。
ながほ接ぎの詳細説明
この手法では、冬〜春先の休眠期に、太い枝を選んで切断し、そこに品種更新や改良を目的とした穂木を「割り接ぎ」や「削り接ぎ」で挿し込むのが一般的です。
枝径は直径5cm以上あることが多く、切断後は速やかに穂木を接ぎ、癒合剤やテープなどで密封し、乾燥や病害から保護します。
接ぎ木が成功すれば、2〜3年で結果母枝(けっかぼし)として機能するまでに生長し、収穫までつながります。これにより、樹体全体を伐採・再植栽するよりもはるかに早く生産再開が見込めます。
ながほ接ぎの役割
- 園地再生と更新
老木や被災木の骨格枝を活かして、剪定や接ぎにより樹勢を再構築する。 - 省コスト・省時間
苗木から植えるよりも再生期間が短く、資材・人件費も軽減される。 - 品種更新の迅速化
市場ニーズに応じた品種転換を速やかに行い、販売力を高められる。
ながほ接ぎの課題と対策
課題1:癒合不良と失敗率
接ぎ面の密着不足や乾燥などにより、癒合せず失敗するケースが多くあります。
- 対策:晴天を避けた春先に作業し、切断面は水平に整え、癒合剤やテープを用いて保湿・保護を徹底する。
課題2:病害虫の侵入
カット面から腐敗菌や害虫が侵入し、接ぎ穂や母枝が枯死することがあります。
- 対策:使用する鋸やナイフはアルコール消毒し、癒合部には防腐・防虫剤を塗布するなど衛生管理を強化。
課題3:風害や雪害による破損
穂木の活着後すぐは結合が弱く、台風や降雪によって折損することがあります。
- 対策:支柱や補助棒で穂木を固定し、風通しや積雪状況を予測した配置を行うことで破損リスクを下げる。
災害とながほ接ぎの関係性
2024年に長野県で発生したカラマツの枝折れ被害では、風雪で折れた枝がリンゴ樹を直撃し、多くの樹木が骨折・裂傷を負いました。このような突発的な被害に対して、ながほ接ぎは「全伐して苗から再出発」せずに済む、部分的な回復法として非常に有効です。 特に台木や主幹が生きている場合は、太枝への接ぎで生産回復を数年で実現できるため、台風や雪害が増える日本の果樹園ではレジリエンス(回復力・しなやかな強さ)を高める技術ともいえます。