被覆肥料(ひふくひりょう)

被覆肥料(ひふくひりょう)
被覆肥料(コーティング肥料)

被覆肥料(コーティング肥料)の概要

被覆肥料(ひふくひりょう)とは、水溶性の肥料成分を硫黄や合成樹脂などの膜で覆い、土壌中で肥料成分が溶け出す量や期間を調節した肥料です。「コーティング肥料」とも呼ばれます。

一般的な速効性肥料は、施用後に肥料成分が比較的速く溶出します。作物が吸収しきれない場合は、降雨、灌水、漏水、土壌条件などによって、根域外への溶脱や流亡が生じることがあります。被覆肥料は、肥料成分の溶出速度や溶出期間を調節することで、追肥作業の省力化や施肥効率の向上を図るために使用されます。

ただし、被覆肥料が作物の状態を検知し、必要な量の肥料成分を自動的に供給するわけではありません。作物、作型、地温、土壌水分、栽培期間、施肥量に合った製品を選ぶ必要があります。

また、合成樹脂などのプラスチック被膜を使用した被覆肥料では、肥料成分が溶出した後に被膜殻(ひまくがら)が残ります。特に水田では、被膜殻が水面に浮き、排水路や河川を通じて海洋へ流出するおそれがあるため、流出防止対策と代替技術への転換が重要な課題となっています。

被覆肥料の仕組み

被覆肥料は、肥料粒の表面を薄い膜で覆い、膜を通じて肥料成分が徐々に溶け出すよう設計されています。肥料成分が土壌中へ溶け出すことを「溶出(ようしゅつ)」といいます。

被覆材の種類、膜の厚さ、製品設計によって、肥効が続く期間や溶出のパターンは異なります。地温や土壌水分などの影響も受けるため、同じ製品を使用しても、地域、作型、栽培時期によって肥効の現れ方が変わる場合があります。

被覆肥料は、栽培期間や作物の養分吸収パターンに合う製品を選ぶことで、追肥回数の削減、施肥作業の省力化、肥料成分の利用効率向上が期待できます。一方で、製品選定を誤ると、必要な時期に肥効が不足したり、生育後半まで肥効が残りすぎたりすることがあります。

被覆肥料の仕組み被覆肥料の仕組み

※土壌中に残った細かな被膜殻を完全に回収することは容易ではないため、流出防止だけでなく、代替肥料や代替施肥技術への転換も検討する必要があります。 

「溶出」「溶脱」「流亡」「流出」の違い

被覆肥料を理解する際は、肥料成分や被膜殻の動きを混同しないことが重要です。

用語 意味
溶出 肥料粒から肥料成分が水に溶け出すこと
溶脱 水に溶けた肥料成分が、降雨や灌水によって根域より下へ移動すること
流亡 肥料成分が表面流去水や地下への移動などによって、作物が利用しにくい場所へ失われること
流出 肥料成分や被膜殻が、排水などによってほ場外へ出ること

被覆肥料は、肥料成分の溶出速度を調節する資材です。使用すれば溶脱、流亡、流出が必ず防げるわけではありません。施肥量、水管理、土壌条件、作物の吸収量を含めて判断する必要があります。

被覆肥料と肥効調節型肥料、緩効性肥料の違い

「被覆肥料」「肥効調節型肥料」「緩効性肥料」は、似た意味で使われることがありますが、厳密には同じではありません。

用語 概要
肥効調節型肥料 肥料成分の溶出や形態変化を物理的または化学的に調節し、作物が必要とする時期に養分を供給することを目標に開発された肥料の総称
被覆肥料 肥料粒を硫黄や合成樹脂などの膜で覆い、肥料成分の溶出量や溶出期間を調節した肥料
緩効性肥料 速効性肥料と比べて肥効が緩やかに現れ、一定期間持続する肥料の総称として使われることが多い
一発肥料 基肥として施用し、追肥作業の削減を図る肥料。水稲用一発肥料には被覆肥料が配合されている製品が多いが、被覆肥料と完全な同義語ではない

被覆肥料の主な種類

被覆窒素肥料

窒素質肥料を被覆し、窒素成分の溶出量や溶出期間を調節した肥料です。作物の生育期間に合わせて、肥効が続く期間や溶出タイプを選定します。

被覆複合肥料

窒素、りん酸、加里などの複数の成分を含む肥料を被覆したものです。製品によって、保証成分、被覆の有無、肥効期間、溶出特性が異なります。

すべての成分が同じ速度で均等に溶出するとは限りません。保証成分の数値だけでなく、製品の設計、肥効期間、溶出タイプ、使用条件を確認する必要があります。

プラスチック被覆肥料

合成樹脂などのプラスチックを含む膜で肥料粒を覆った被覆肥料です。追肥作業の省力化や施肥量の削減に役立つ一方で、肥料成分が溶出した後にプラスチック被膜殻が残ることがあります。

プラスチックを使用しない緩効性肥料

硫黄コーティング肥料やウレアホルム肥料など、プラスチック被膜を使用しない緩効性肥料もあります。ただし、肥効の現れ方や持続期間は製品ごとに異なります。単純に置き換えるのではなく、作物、作型、土壌、地域の施肥基準に合うかを確認してください。

被覆肥料の主なメリット

追肥作業を削減できる

作物の栽培期間に合った製品を使用することで、追肥回数を減らせる場合があります。特に、水稲栽培などで省力化を目的として使用されています。

肥料成分の利用効率向上が期待できる

肥料成分が短期間に集中して溶出することを抑え、作物が吸収できる時期に合わせて供給することで、肥料成分の利用効率向上が期待できます。

施肥作業の平準化につながる

追肥作業の回数を減らせる場合、繁忙期の作業負担を軽減できます。作業者不足や高齢化への対応という点でも有効な場合があります。

被覆肥料を使用する際の注意点

追肥が必ず不要になるわけではない

被覆肥料や水稲用一発肥料を使用しても、追肥が常に不要になるわけではありません。高温、低温、漏水、土壌条件、品種、生育量、施肥量によっては、肥効が不足したり、過剰になったりする場合があります。生育状況を確認し、必要に応じて追肥の要否を判断してください。

製品名だけで判断しない

同じ「被覆肥料」や「一発肥料」という名称でも、被覆材、肥効期間、溶出タイプ、保証成分は異なります。使用前に肥料袋の表示や製品資料を確認してください。

肥効期間は固定値ではない

肥効が続く期間は、地温、土壌水分、被覆材、膜の厚さなどの影響を受けます。カタログ上の期間だけを見て判断すると、実際の栽培条件と合わない場合があります。

プラスチック被膜殻の残留・流出問題

プラスチックを使用した被覆肥料では、肥料成分が溶出した後も被膜殻が残ります。水田では、被膜殻が水面に浮き、排水とともに水路や河川へ流れ出し、海洋プラスチックごみの一因となるおそれがあります。

農林水産省は、プラスチックを使用した被覆肥料について、被膜殻のほ場からの流出実態調査を行い、流出防止対策と代替技術の導入を推進しています。

特に注意が必要なのは代かき時期です。中国四国農政局は、ほ場から流出するプラスチック殻の9割が代かき時期に発生すると説明しています。

水面に浮いた被膜殻は、捕集ネットや網を使って回収できる場合があります。ただし、土壌中に残った細かな被膜殻を、通常の栽培作業だけで完全に回収することは現実的ではありません。回収だけに頼らず、ほ場外へ流出させない水管理と、プラスチック被膜を使用しない代替技術への転換を検討する必要があります。

水田で行うべき被膜殻の流出防止対策

プラスチック被覆肥料を使用している水田では、次の対策を組み合わせてください。

  • 入水前にほ場を均平化する: 水深の偏りを減らし、必要以上の入水や落水を避けます。
  • 入水量を最小限に抑える: 深水での代かきを避け、浅水代かきを行います。
  • 可能な限り自然落水とする: 代かき後に強制落水すると、被膜殻が水とともに流出しやすくなります。
  • 水尻や落水口に捕集ネットを設置する: 被膜殻が排水路へ出る前に捕集します。
  • 水面に浮いた被膜殻をすくい取る: 網などを使い、可能な範囲で回収します。
  • 捕集した被膜殻を適切に処理する: 自治体、JA、地域の廃棄ルールを確認し、適切に処理します。

畦畔(けいはん)の管理だけでは不十分です。浅水代かき、強制落水の回避、捕集ネットの設置、回収後の適切な処理までを一連の対策として行う必要があります。

プラスチック被覆肥料からの転換

肥料関係団体は、2030年までに「プラスチックを使用した被覆肥料に頼らない農業」を理想として掲げています。農林水産省も、被膜殻の流出防止に加え、代替肥料や代替施肥技術の導入を推進しています。

代替技術としては、次のような選択肢があります。

選択肢 概要 確認すべき点
硫黄コーティング肥料 プラスチック被膜を使用しない緩効性肥料 作型に合う肥効期間、土壌条件、製品特性を確認する
ウレアホルム肥料 尿素とホルムアルデヒドを反応させた緩効性窒素肥料 肥効の発現条件、作物、土壌条件を確認する
流し込み施肥 液状肥料などを灌漑水とともに施用する方法 ほ場の水管理、漏水、施肥精度、作業体系を確認する
ペースト側条二段施肥 ペースト肥料を異なる深さに施用し、肥効の持続を図る方法 対応機械、導入費、作業性、地域の実証結果を確認する
ドローンなどによる省力追肥 基肥と追肥を組み合わせ、プラスチック被覆肥料への依存を減らす方法 散布精度、作業委託費、ほ場条件、使用できる肥料を確認する

代替技術は、単純に肥料銘柄を入れ替えればよいとは限りません。省力性、収量、品質、施肥量、機械の対応状況、費用を比較し、地域の普及指導機関、JA、肥料販売店などに確認したうえで導入してください。

被覆肥料に関するよくある誤解

被覆肥料は、すべて環境に優しい肥料ですか?

一概にはいえません。肥料成分の溶脱や流亡を抑え、施肥効率向上が期待できる一方で、プラスチック被膜を使用した製品では、被膜殻の残留・流出が問題となります。利点と課題の両方を確認する必要があります。

被覆肥料は、すべてプラスチックを使用していますか?

すべてではありません。合成樹脂などのプラスチック被膜を使用した製品のほか、硫黄コーティング肥料など、プラスチック被膜を使用しないタイプもあります。肥料袋の表示や製品資料を確認してください。

一発肥料を使えば、追肥は不要ですか?

必ずしも不要ではありません。気象、漏水、土壌条件、品種、生育状況などによって肥効が不足する場合があります。生育を確認し、必要に応じて追肥を検討してください。

プラスチック被膜殻は、自然にすべて分解されますか?

プラスチック被膜を使用した製品については、自然にすべて分解されることを前提に扱ってはいけません。使用前に被覆材を確認し、水田では被膜殻をほ場外へ流出させない対策を行ってください。

畦畔を管理すれば、流出防止対策として十分ですか?

十分ではありません。浅水代かき、強制落水の回避、入水量の抑制、水尻や落水口への捕集ネットの設置、水面に浮いた被膜殻の回収、回収後の適切な処理を組み合わせる必要があります。

被覆肥料に関するよくある質問

被覆肥料とコーティング肥料は同じものですか?

一般に、同様の意味で使われます。農林水産省の資料でも「被覆肥料(コーティング肥料)」と併記されています。専門的な説明では「被覆肥料」を基本用語とし、「コーティング肥料」を併記すると分かりやすくなります。

被覆肥料は禁止されるのですか?

2026年6月時点で、すべての被覆肥料が全国一律で直ちに使用禁止になると決定されたわけではありません。ただし、プラスチックを使用した被覆肥料については、肥料成分が溶出した後に残る被膜殻の流出が問題となっています。流出防止対策を徹底するとともに、プラスチックを使用しない肥料や代替施肥技術への転換を検討する必要があります。

被膜殻は回収できますか?

水田の水面に浮いた被膜殻は、落水口の捕集ネットや網を使って回収できる場合があります。ただし、土壌中に残った細かな被膜殻を完全に回収することは容易ではありません。回収だけでなく、流出防止と代替技術への転換が必要です。

使用している肥料にプラスチックが含まれているか確認できますか?

肥料袋の表示や製品資料を確認してください。不明な場合は、肥料メーカー、JA、肥料販売店に確認してください。「一発肥料」「コーティング肥料」という名称だけで判断せず、被覆材を確認することが重要です。

被覆肥料を選ぶ前に確認するポイント

  • 作物、品種、作型に合った肥効期間か
  • 地温や土壌水分によって、肥効の現れ方が変わることを考慮しているか
  • 保証成分だけでなく、溶出タイプや使用条件を確認したか
  • 追肥の要否を生育状況から判断できる体制があるか
  • 被覆材にプラスチックが含まれているか
  • 水田で使用する場合、浅水代かきや捕集ネットなどの流出防止対策を行えるか
  • 回収した被膜殻の処理方法を確認したか
  • プラスチックを使用しない肥料や代替施肥技術へ転換できないか検討したか

まとめ

被覆肥料は、肥料成分の溶出量や溶出期間を調節し、追肥作業の削減や施肥効率の向上を図るための肥料です。一方で、プラスチック被膜を使用した製品では、肥料成分が溶出した後に残る被膜殻の流出が問題となります。

被覆肥料を使用する場合は、製品の被覆材、肥効期間、溶出特性を確認してください。特に水田では、浅水代かき、強制落水の回避、捕集ネットの設置、水面に浮いた被膜殻の回収を組み合わせる必要があります。

省力化だけを理由に従来の施肥体系を続けるのではなく、プラスチックを使用しない緩効性肥料や代替施肥技術への転換も含めて検討することが重要です。

参考資料

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