シナチクノメイガ(しなちくのめいが)は、チョウ目ツトガ科に属する外来性の害虫で、学名をEumorphobotys eumorphalis(ユーモルフォボティス・ユーモルファリス)といいます。
原産地は中国南部で、日本では2020年に愛知県で初めて確認されました。その後、関東から関西の広い範囲に分布が拡大し、竹林やタケノコ生産地への影響が問題視されています。
成虫の開張(かいちょう)はおよそ30〜40mmで、5〜9月に出現します。成虫は花の蜜を吸い、幼虫(ようちゅう)は主にタケ類の葉を食害します。
シナチクノメイガの概要
本種は、タケ類の葉を綴(つづ)じ合わせて内部で蛹化(ようか)するという特徴をもちます。
幼虫は淡緑色または淡赤白色で、終齢時には体長約30mmほどになります。成虫は黄褐色から灰褐色で、雌雄(しゆう)で色味が異なります。
日本では、愛知県・静岡県・山梨県・神奈川県・東京都・千葉県・大阪府・京都府など本州各地で発生が報告されています。活動期は5〜9月で、竹林周辺や明るい夜間灯火に飛来する様子が観察されています。
寄主植物(きしゅしょくぶつ=害虫や病原体が成長・繁殖するために利用する植物)は主にタケ類で、幼虫が葉を食べることで褐変や葉枯れが起こり、光合成能力が低下します。結果として、タケノコの生育不良や竹林の景観悪化にもつながることが指摘されています。
シナチクノメイガ
シナチクノメイガの課題と対策
現在、シナチクノメイガに対して国内で登録された専用の防除薬剤はなく、農家や林業関係者は主に発生の早期発見と物理的防除を中心とした対策を講じています。ここでは、主要な課題とその対策を3点に整理します。
- 課題1:登録農薬の未整備
現時点ではタケ類を対象とした専用農薬が存在しないため、薬剤による防除は難しい状況です。
対策:手作業による被害葉の除去が有効です。葉が綴じられている部分を見つけた場合、早期に切除・焼却処理を行い、幼虫や蛹の残存を防ぎます。また、定期的なほ場巡回を実施し、被害の進行度を観察することが重要です。 - 課題2:発見が困難で被害が拡大しやすい
幼虫は葉の内側で生活するため、表面からは食害が確認しにくく、初期被害が見逃されることがあります。
対策:光トラップを設置して成虫の飛来をモニタリングし、発生時期を把握します。葉に不自然な綴じ目が見られた場合は即座に確認し、発見した蛹や幼虫を取り除くことで拡散を防ぎます。 - 課題3:分布拡大のスピード
近年、関東・関西を中心に急速に発生報告が増加しており、今後さらなる拡散が懸念されています。
対策:地域単位での情報共有体制を整備し、防除所や自治体、研究機関が連携して発生情報を発信することが必要です。竹製品や苗木などの持ち込み時に、卵や幼虫の付着を確認する衛生管理も有効な手段です。
また、自然環境保全の観点からも、在来昆虫との競合や竹林生態系の攪乱(かくらん)を最小限に抑えるため、過剰な薬剤使用を避けつつ、物理的・生態的な管理を優先することが望まれます。将来的には、天敵生物の利用やフェロモントラップなどを用いた防除法の研究が期待されています。
参照
- 京都府病害虫防除所:「特殊報 第5号 シナチクノメイガ(Eumorphobotys eumorphalis)」
https://www.pref.kyoto.jp/byogai/documents/tokusyu2024_05.pdf
→ 中国原産の外来種であるシナチクノメイガの発生を報告。成虫・幼虫の形態写真、寄主植物(タケ類)、被害の特徴、今後の防除対策などが詳しく示されています。 - 大阪府病害虫防除所:「特殊報 第2号 シナチクノメイガ Eumorphobotys eumorphalis」
https://www.pref.osaka.lg.jp/documents/84527/250926_tokusyuhou02_shinachikunomeiga.pdf
→ 大阪府内(羽曳野市・八尾市)で初確認された発生記録。発生環境、成虫の羽化期、幼虫による葉の綴じ合わせや食害の様子、防除の呼びかけなどを掲載。 - 京都府植物防疫法関連資料:「植物防疫法第29条第1項に基づく措置 — シナチクノメイガ」
https://www.pref.kyoto.jp/byogai/documents/sinatics_article_29.pdf
→ シナチクノメイガに関し、京都府が植物防疫法に基づいて防除措置を実施することを明記。対象作物を「タケ類(たけのこを含む)」と定め、地域的防疫対応の枠組みを示す。 - 大阪府環境農林水産部農政室:「たけのこのノメイガ類の発生について — 防除情報」
https://www.pref.osaka.lg.jp/documents/84527/250731boujojoho04_takenoko_nomeiga.pdf
→ タケノコ栽培におけるノメイガ類(シナチクノメイガ含む)の発生状況を報告。登録農薬がないため、早期発見・物理的除去・衛生管理などの実践的防除策を提示。 - 長岡京市農林振興課:「長岡京市農産物病害虫等防除対策事業費補助金交付要綱」
https://www.city.nagaokakyo.lg.jp/0000000893.html
→ シナチクノメイガを含む竹林害虫への防除活動に対して、農薬散布・駆除を行う農業者へ補助金を交付する旨を規定。地方自治体による支援体制の事例。







