サツマイモ基腐病(さつまいももとぐされびょう)

サツマイモ基腐病(さつまいももとぐされびょう)
サツマイモ基腐病(さつまいももとぐされびょう)とは、葉やつるに直接症状が出る病気ではなく、茎の地際部から侵入・発病し、地下の塊根まで腐敗を進行させる土壌伝染性の糸状菌性病害です。

サツマイモ基腐病は、葉やつるに直接症状が出る病気ではなく、茎の地際部から侵入・発病し、地下の塊根(かいこん)まで腐敗を進行させる土壌伝染性の糸状菌性病害です。
葉の枯れや生育不良は初期症状ではなく、茎基部および地下部の腐敗が進行した結果として現れる二次的な症状です。

この病気を「葉の病気」「地上部の病害」と誤認すると、防除の重点を誤り、苗・土壌・水管理といった本質的対策を見落とす原因になります。

サツマイモ基腐病の概要

サツマイモ基腐病は、主に糸状菌(カビ)によって引き起こされる土壌伝染性の病害で、病原菌は土壌中または感染苗を介して圃場(ほじょう)へ侵入します。
本病は葉やつるに最初に症状が現れる病気ではなく、茎の地際部から発病が始まる点が大きな特徴です。

発病の初期段階では、茎の地際部が暗褐色から黒色に変色し、組織が軟化します。この段階では、地上部の葉が青く見えることも多く、外観だけでは異常に気付きにくい傾向があります。

病勢が進行すると、茎基部の腐敗によって養水分の吸収が阻害されるため、その結果として葉の黄化萎凋(いちょう)、急激な生育停止が現れます。
さらに進行した場合には、地下の塊根まで腐敗が及び、収穫不能となります
このため、基腐病の被害は生育中ではなく、収穫期や選別段階で初めて顕在化するケースも少なくありません。

補足:本病の病原菌は人に感染するものではありませんが、発病したイモは腐敗や変色、異臭などにより品質が著しく低下するため、食品としての安全性が保証できず、流通・食用には適しません

関連する農業資材

 

サツマイモ基腐病の詳細説明

病原と伝染の考え方

本病の病原は糸状菌で、土壌中で一定期間生存できる土壌伝染性の性質を持ちます。
このため、サツマイモ基腐病は一度発生した圃場では翌作以降も再発リスクが残る病害として扱う必要があります。

原因菌は Diaporthe destruens(ディアポルテ・デストルエンス) とされ、文献によっては旧称(別表記)で記載される場合があります。

伝染経路は主に次の二つに整理できます。

  • 感染苗の持ち込み
  • 汚染土壌からの侵入

特に重要なのは、感染苗の持ち込みが初発要因となるケースが多い点です。
見た目が健全な苗であっても病原菌を保有している可能性があり、外観のみで苗の健全性を判断することはできません。


発病を助長する条件(現場判断の基準)

以下の条件が重なる場合、発病リスクは明確に高まると判断します。

  • 高温多湿条件
  • 排水不良の圃場
  • 過剰な灌水(かんすい)
  • 未熟有機物の多量投入
  • サツマイモの連作

特に、「多湿+高温」に排水不良が重なる圃場は高リスク状態です。
この条件下では、殺菌剤の使用以前に、栽培環境そのものが発病を強く助長していると判断すべきです。

サツマイモ基腐病の課題と対策

課題1:土壌中で病原菌が残存する点

問題点
病原菌は土壌中で一定期間生存するため、一作限りの対策では再発を防ぐことが困難です。

対策(判断基準)

  • 連作圃場では発病リスクが高いと判断する
  • 輪作体系を基本とし、連作は避ける
  • 発生履歴がある圃場では、土壌条件や作付体系を踏まえたうえで土壌消毒の要否を事前に検討する

※「前年に発生したが今年は様子を見る」という判断は、病原菌の土壌残存性を過小評価しており危険です。

課題2:健全苗と感染苗の外観判別が困難

問題点
基腐病は初期段階では、感染苗であっても外観に異常が現れない場合があります。

対策(判断基準)

  • 出所が明確で、管理履歴が確認できる苗を使用する
  • 自家育苗では、親株の健全性や育苗環境の管理履歴を重視する
  • 履歴不明な苗は、価格に関わらず基腐病リスクが高いと判断し使用を避ける

苗段階での妥協は、定植後に圃場全体へ被害を拡大させる要因となります。

課題3:多湿条件で被害が急拡大する点

問題点
過湿状態では、病原菌の活動が活発化し、被害が短期間で拡大します。

対策(判断基準)

  • 高畝栽培を基本とし、排水性を確保する
  • 排水不良圃場では、作付自体の可否を再検討する
  • 灌水管理では「水を与えること」よりも、過剰な水分状態を作らないことを優先する

基腐病対策では、生育確保よりも、病害発生を招く過湿状態を作らない判断が最優先であり、適切な水管理が不可欠です。

生産現場での判断上の注意点(補足)

サツマイモ基腐病では、目に見える症状が出てから対策を講じても、被害を完全に止めることは困難です。そのため、生産現場では「発病後の対応」よりも、発病させない前提での判断が重要となります。

具体的には、過去に基腐病の発生履歴がある圃場では、症状の有無に関わらず高リスク圃場として扱う判断が必要です。また、定植後に生育のばらつきや軽度の萎れが見られた場合でも、安易に水分や施肥を増やす対応は避けるべきです。

基腐病対策においては、「様子を見る」「もう少し様子を見る」という判断が最も被害を拡大させやすいことを理解し、苗・土壌・水管理のいずれかに不安要素がある場合は、早い段階で作付や管理方針を見直す決断が求められます。

参照・後述

  • 農林水産省:「サツマイモ基腐病対策について」
    https://www.maff.go.jp/j/seisan/tokusan/kansho/motogusare.html
    → 我が国での初確認(平成30年度)からの経緯、年度別支援策(PDF)を整理。産地としての対応の全体像を把握する入口になります。
  • 農林水産省(消費・安全/植物防疫関係資料):「サツマイモ基腐病のまん延防止に向けて」(PDF)
    https://www.maff.go.jp/j/syouan/syokubo/gaicyu/siryou2/attach/pdf/index-26.pdf
    → 病徴が「地際部からいもへ進行する」こと、伝染(罹病苗・種いも、風雨・湛水、残さ)を簡潔に提示。疑義株時の相談先(病害虫防除所等)も明記されています。
  • 農研機構(NARO):「サツマイモ基腐病の発生生態と防除対策(令和4年度版)」
    https://www.naro.go.jp/publicity_report/publication/pamphlet/tech-pamph/158250.html
    → 発生生態(どう広がるか)と、現場で組める防除の考え方を技術者向けに体系化。薬剤防除や種いも処理など「対策の組み立て」を点ではなく線で理解できます。
  • 農研機構(NARO):「本圃におけるサツマイモ基腐病発病リスク低減技術」マニュアル(PDF)
    https://www.naro.go.jp/publicity_report/publication/files/motogusarebyo_hatsubyorisuku_teigen_manial.pdf
    → 本圃(ほんぽ)での総合防除を、排水・残さ・初期抜き取り・輪作・作型変更・抵抗性品種・薬剤ローテーションまで含めて整理。意思決定(何を優先するか)に使える構成です。
  • 鹿児島県(農政部/対策プロジェクト):「サツマイモ基腐病防除対策マニュアル(第4版,令和6年3月)」PDF
    https://www.pref.kagoshima.jp/ag06/documents/documents/74570_20240315133011-1.pdf
    → 対策の基本を「持ち込まない/増やさない/残さない」で明確化。圃場・苗・残さ・防除の着眼点が現場向けに短く整理されています(版管理されている点も実務向き)。
  • 鹿児島県:「サツマイモ基腐病対策のポイント(総合的対策)」
    https://www.pref.kagoshima.jp/ag06/documents/satumaimobyougai.html
    → 啓発資料・防除暦・育苗のポイント・健全種いも生産のポイント等の関連PDFがまとまった“ハブ”。現場配布資料を探すのに強いページです。
種苗、肥料、農業資材の取扱店。 営農アドバイスも受けれます。
農材ドットコム SNSの告知
新規CTA
新規CTA
【無償掲載キャンペーン】農材ドットコムに貴社の商品情報を掲載!!
新規CTA
新規CTA
TOP