クビアカツヤカミキリ

クビアカツヤカミキリ
クビアカツヤカミキリは樹木を枯死へ追い込む危険性の高い病害虫

クビアカツヤカミキリ(くびあかつやかみきり)とは、日本の果樹農業やサクラ並木に甚大な被害をもたらしている特定外来生物(特定外来種)で、主にモモ・サクラ・スモモなどのバラ科樹木内部へ侵入し、幼虫(外来カミキリ幼虫)が幹を長期間食害することで樹木を枯死へ追い込む危険性の高い病害虫です。

本種は中国・台湾・朝鮮半島などが原産とされ、輸入木材や梱包材に潜んだまま日本へ侵入したと考えられています。 国内では愛知県をはじめ、群馬県、栃木県、埼玉県行田市、大阪府など広範囲で急速に拡大し、農家だけでなく自治体が管理する公園・街路樹にも深刻な影響を及ぼしています。

特に幼虫が生み出す「フラス」と呼ばれる木くず混じりの排出物は被害発見の重要な手がかりであり、早期発見と防除が最も重要な対策になります。

同意語としては「クビアカ」や「クビアカツヤ」と呼ばれることがあります。

 

クビアカツヤカミキリの概要

クビアカツヤカミキリ(学名:Aromia bungii)は、コウチュウ目カミキリムシ科に属する大型外来カミキリで、成虫は黒い光沢のある体と前胸(ぜんきょう)の鮮やかな赤色が特徴です。 外来生物法に基づき2018年に「特定外来生物」に指定されており、飼育・運搬・放出・保管などが厳しく禁止されています。 外来生物の中でも分布の拡大速度が非常に速く、農家や自治体の管理木、景観樹木において生態系・経済への被害が急増しているため、環境省や各都道府県が注意喚起と防除体制の強化を進めています。

クビアカツヤカミキリ
クビアカツヤカミキリ

クビアカツヤカミキリの詳細説明

(1)形態と特徴

  • 成虫(せいちゅう):体長約25〜40mm。黒色の光沢と赤い前胸が顕著。オスは長い触角を持ち、メスは比較的短い傾向があります。
  • 幼虫(ようちゅう):乳白色で細長く、最大で5cm以上に達する大型幼虫。樹木内部で生活するため発見が遅れやすく、被害拡大の原因になります。
  • 蛹(さなぎ):樹木内部に自ら作った蛹室(ようしつ)で変態します。
  • 卵:樹皮の割れ目や傷口へ産み付けられます。

クビツヤアカツヤカミキリの幼虫
クビツヤアカツヤカミキリの幼虫

(2)生活環(ライフサイクル)

  1. 成虫の発生は主に6〜8月。飛翔能力が高く、短期間で広い範囲に拡散します。
  2. メスは産卵管を樹皮の割れ目へ差し込み、多い場合は数百個の卵を産み付けます。
  3. ふ化した幼虫は幹内部の形成層(けいせいそう)や辺材部(へんざいぶ)を食害しながら1〜3年間生育します。
  4. 幼虫が活動すると排出孔から「フラス」(木くず+糞)が大量に排出され、根元に山積みになることがあります。
  5. クビアカツヤカミキリ被害によるフラス
  6. クビアカツヤカミキリ被害によるフラス

(3)被害と発生状況

  1. バラ科樹木への加害が特に深刻で、モモ・スモモ・ウメなどの果樹園では幼虫の内部食害により樹木が枝枯れや樹勢低下を起こし、最終的に枯死する事例が続出しています。 サクラでは公園・街路樹・河川敷の並木が甚大な被害を受け、倒木リスクや景観損失が問題化し、栃木県・群馬県・埼玉県行田市など各地で伐採や緊急対策が進められています。 特定外来生物としての危険性が高く、人為的移動(薪・伐採木・苗木運搬など)による被害拡大も確認されており、国内全域で注意が必要です。

クビアカツヤカミキリの課題と対策

クビアカツヤカミキリに関する農業・景観・生態系における3つの主要課題と、その具体的な対策を示します。

課題1:果樹農業(モモ・スモモ)への甚大な経済被害

永年作物であるモモ・スモモが内部から食害されると、枝枯れ・減収を経て最終的に樹木が枯死します。 1本の喪失は数年〜十数年分の収益が失われることを意味し、園地全体へ広がれば廃園や廃業に至る可能性もあります。

対策

  • 早期発見の徹底:フラスの有無や樹皮の剥離、樹液漏れを定期巡回で確認。
  • 物理的防除:成虫は見つけ次第捕殺。フラス孔へ針金を挿し幼虫を駆除。被害が大きい場合は樹皮を開いて掻き出します。
  • 化学的防除(農薬):樹幹注入剤の使用や、成虫発生期の薬剤散布が有効。ただし内部深部の幼虫には届きにくい場合があります。
  • 被害木の伐採・焼却:被害が進んだ木は速やかに伐採し、現地で焼却または細かく破砕して幼虫の生存を断ちます。

課題2:サクラ並木・景観樹木への深刻な影響

日本の春を象徴するサクラに対し、クビアカツヤカミキリは最大級の脅威です。 幹内部が空洞化し倒木の危険が高まることから、多くの自治体が伐採を余儀なくされています。 景観損失に加え、サクラを利用する在来生物の生態系への影響も懸念されます。

対策

  • 防虫ネット被覆:幹に目合い4mm以下のネットを巻き、産卵や侵入・脱出を防止。
  • 市民参加型モニタリング:発見通報制度や調査会を実施し、地域ぐるみで早期発見。
  • 啓発活動:特徴・発見時の対応方法を広報媒体で周知し、発見後の移動禁止を徹底。

課題3:防除の難しさと拡散スピードの速さ

幼虫が「樹木内部」という薬剤も物理的手段も届きにくい場所で成育することが、防除を極めて難しくしています。 成虫の飛翔力も高く、人為的な移動(薪・苗木など)も加わり、全国的に飛び火的に被害が広がります。

対策

  • 法的措置の徹底:特定外来生物として、生きた個体や被害木材の移動禁止を遵守。
  • 発見時の通報:自治体・環境省・都道府県へ連絡し、地域の発生情報を共有。
  • 報奨金制度の活用:栃木県・群馬県・埼玉県行田市などで導入されており、市民協力を促進。
  • 広域連携:国・自治体・研究機関・農協・市民が一体となった広域的な防除体制が必要。

以上のように、クビアカツヤカミキリは日本の果樹農業と景観双方に極めて深刻な被害を与える病害虫であり、発見・報告・駆除・啓発を地域全体で継続していくことが、被害拡大を防ぐ唯一の道となっています。

参照

  • 環境省:「クビアカツヤカミキリの関連情報のリンク集」
    https://www.env.go.jp/nature/gairai/info_kubiaka.html
    → クビアカツヤカミキリの原産地、寄主樹種(サクラ・ウメ・モモなどバラ科樹木)、特定外来生物指定の経緯と、生きた個体の移動禁止など外来生物法上の規制・対策を総覧する環境省公式情報です。
  • 農林水産省:「クビアカツヤカミキリに関する情報」
    https://www.maff.go.jp/j/syouan/syokubo/keneki/k_kokunai/kubiaka/kubiaka.html
    → 東アジア原産害虫としての位置づけ、モモ・アンズ等サクラ属果樹への重要害虫であること、国内発生状況(15都府県)、特定外来生物指定と農水省としてのまん延防止の取り組みが整理されています。
  • 生物系特定産業技術研究支援センター(BRAIN)/農研機構等:「(お知らせ)サクラ・モモ・ウメに脅威、外来カミキリムシの防除法を開発」
    https://www.naro.go.jp/laboratory/brain/press/159286.html
    → 森林総研など11機関連携で、クビアカツヤカミキリの生態解明と有効薬剤、被害を抑えるための防除マニュアルやオンラインマッピングシステムを開発した成果を紹介しており、防除技術の科学的根拠として参照できます。
  • 環境省(野生生物課等):「クビアカツヤカミキリ被害対策の手引書(改訂第4版)」PDF資料
    https://www.env.go.jp/nature/intro/3control/files/kubiaka_tebiki_nosuiken.pdf
    ※ 特定外来生物としての法的位置づけ、被害事例、被害木の伐倒・焼却等を含む防除手順、地域ぐるみの対策の進め方などを詳しくまとめた自治体・現場向け実務マニュアルです。
  • 群馬県:「クビアカツヤカミキリによる令和6年度被害状況について」
    https://www.pref.gunma.jp/site/houdou/667899.html
    → 県内被害本数の推移(10,508本・前年比1.37倍など)、被害拡大エリア、車両等に付着した拡散可能性、今後の対策方針を示しており、実際の被害規模と拡散状況を把握するための公的データとして利用できます。

新規CTA
農材ドットコム SNSの告知
種苗、肥料、農業資材の取扱店。 営農アドバイスも受けれます。
【無償掲載キャンペーン】農材ドットコムに貴社の商品情報を掲載!!
新規CTA
新規CTA
新規CTA
TOP