葯(やく)

葯(やく)
葯は雄しべの一部で、内部の葯室・花粉嚢で花粉が形成され、成熟後に花粉を放出します。

葯とは

(やく)とは、被子植物の雄しべを構成する器官の一つで、花粉をつくり、成熟後に花粉を放出する部分です。多くの場合、花糸の先端にあり、内部の葯室・花粉嚢で花粉が形成されます。

農業では、葯は単なる花の部品ではありません。トマト、ナス、ピーマン、イチゴ、果樹類などでは、葯の発達、花粉の成熟、葯の開き方、花粉の出やすさが受粉・着果・種子形成に関係します。ただし、着果不良を見て「葯が悪い」と即断するのは危険です。温度、湿度、樹勢、品種、花粉媒介昆虫、振動、薬害、栄養状態なども同時に確認する必要があります。

葯の読み方と英語

葯の読み方はやくです。英語ではantherといいます。雄しべ全体は stamen、葯を支える細い柄の部分は花糸(filament)です。

葯の構造

葯は、花粉を入れる一つの袋というより、内部に花粉をつくる部屋を持つ器官として理解する方が正確です。多くの被子植物では、葯は左右の半葯からなり、その間に葯隔があります。半葯の中には葯室、または花粉嚢と呼ばれる部分があり、そこで花粉が形成されます。

一般的には、1つの半葯に1個または2個の葯室があり、葯全体では2個または4個の葯室になる場合があります。そのため、「葯は必ず2つの花粉嚢からできる」と断定するのは不正確です。

葯の断面図葯の断面図:半葯、葯隔、葯室・花粉嚢、花粉粒

葯と花粉嚢の違い

は雄しべの一部で、花粉を形成して放出する器官です。一方、花粉嚢は、葯の内部で花粉がつくられる袋状の構造を指します。つまり、花粉嚢は葯そのものではなく、葯の中にある構造と考えるのが安全です。

葯の役割

花粉を形成する

葯の内部では、花粉母細胞から花粉が形成されます。花粉は受粉後、雌しべ側で花粉管を伸ばし、受精や種子形成につながります。

成熟した花粉を放出する

花粉が成熟すると、葯は裂けたり、孔が開いたりして花粉を外へ出します。この働きを葯の裂開(れっかい )、または開葯と呼ぶことがあります。花粉が十分にできていても、葯がうまく開かない、花粉が湿って出にくい、花粉の発芽能力が低いと、受粉不良につながる場合があります。

葯の裂開と花粉放出の模式図葯が成熟すると、壁が割れて(これを裂開といいます)、中から無数の花粉が飛び出します。

人工受粉や育種で利用される

果樹などでは、人工受粉用の花粉を得るために、つぼみや花から葯を採取し、開葯させて花粉を集める作業があります。また、育種分野では、葯を培養して半数体や倍加半数体系統を得る葯培養が利用されることがあります。ただし、葯培養は一般栽培の技術ではなく、研究・育種向けの専門技術です。

農業現場で誤解されやすい点

着果不良を葯だけの問題と決めつけない

果菜類で着果が悪い場合、葯や花粉の状態は確認すべきですが、それだけで原因を断定してはいけません。高温、低温、過湿、乾燥、日照不足、草勢の乱れ、ホウ素などの栄養状態、薬害、受粉昆虫の活動不足、振動不足などが重なっている場合があります。

農薬散布で解決できる問題とは限らない

葯の異常や受粉不良を見て、すぐに病害虫と判断して農薬散布へ進むのは危険です。葯そのものを加害する病害虫が常に主因とは限りません。防除が必要かどうかは、病斑、虫の発生、被害部位、発生時期、薬害履歴、栽培環境を確認して判断します。

葯培養を通常の増殖技術と混同しない

葯培養は、種子を増やす通常の育苗技術ではありません。主に育種で固定系統を早く得るために使われる技術です。作物や品種によって成功率が大きく異なり、蕾の発育段階、培地条件、温度処理、染色体倍加処理などが適切でなければ、植物体を得られないことがあります。

葯培養と葯採取の違い葯培養と葯採取の違い

葯を確認する場面

  • トマト・ナス・ピーマンなどの着果不良確認:花粉が出ているか、花が弱くないか、温湿度が極端でないかを確認します。
  • イチゴや果樹の受粉確認:花粉の出方、訪花昆虫の活動、人工受粉の必要性を確認します。
  • 果樹の人工受粉:葯を採取し、開葯して花粉を集める作業に関係します。
  • 育種・研究:葯培養により半数体や倍加半数体の作出を狙う場合があります。

よくある質問

葯とは何ですか?

葯とは、雄しべの一部で、花粉をつくり放出する器官です。多くの場合、花糸の先端にあります。

葯と花粉嚢は同じですか?

完全に同じではありません。葯は雄しべの器官で、花粉嚢は葯の内部で花粉がつくられる袋状の構造です。農業用語としては分けて説明する方が正確です。

葯隔とは何ですか?

葯隔とは、葯の左右の半葯をつなぐ部分です。葯の中央部に位置し、花糸につながる軸のような役割を持ちます。

葯培養とは何ですか?

葯培養とは、葯を培養して半数体や倍加半数体の植物体を得る育種技術です。固定系統の作出を早める目的で使われますが、一般栽培で行う技術ではありません。

葯採取機とは何ですか?

葯採取機とは、人工受粉や花粉採取のために、花から葯を取り出す作業を助ける機械です。果樹などで花粉を調製する場面に関係します。価格や導入可否は、作物、作業量、花粉調製の方法、共同利用の有無によって判断が変わります。

関連語

注意点

葯は重要な器官ですが、農業現場で着果不良や種子不稔を判断する際に、葯だけを原因と決めつけるのは危険です。花粉の量、花粉の発芽能力、柱頭の受容性、温湿度、草勢、栄養状態、受粉昆虫、薬害履歴、品種特性を合わせて確認してください。

参考資料

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