乾腐病(かんぷびょう)

乾腐病(かんぷびょう)
乾腐病(かんぷびょう)

乾腐病(かんぷびょう)とは、植物の根、茎盤部(けいばんぶ)、球根、塊茎(かいけい)、地下部などが褐変し、乾いたように腐敗する病害です。乾腐病という名称は、タマネギ、ジャガイモ、ニンジン、シンビジウムなど複数の作物で使われますが、作物によって原因菌、症状、発生条件、防除方法は異なります。

乾腐病にはフザリウム属菌などの糸状菌が関与する例があります。ただし、乾腐病という言葉だけで原因菌を一つに決めることはできません。作物名、発生部位、発生時期、腐敗の状態、傷の有無、圃場履歴、貯蔵条件を確認せずに農薬や土壌消毒を選ぶことは危険です。

英語ではDry rotと表記されます。作物によっては乾性腐敗病などの近い表現が使われる場合があります。ただし、別名や原因菌は作物ごとに異なります。農作物全般の乾腐病を、単一の病害や単一の原因菌として扱ってはいけません。

乾腐病とは

乾腐病は、植物組織が乾いたように褐変し、陥没(かんぼつ)、萎縮(いしゅく)、しわ、硬化、空洞化、枯れ込みなどを伴う病害です。水浸状(すいしんじょう)に軟らかく腐る軟腐病(なんぷびょう)とは異なる外観を示す場合がありますが、見た目だけで完全に区別できるわけではありません。

乾腐病という名称は、複数の作物で使われます。ただし、同じ名称であっても、病原菌、侵入部位、被害が現れる時期、栽培中に問題になるのか、収穫後の貯蔵中に問題になるのかが異なります。

現場で最も避けるべき誤りは、写真や外観だけを見て乾腐病と断定し、すぐに農薬、土壌消毒、資材の購入へ進むことです。乾腐病に似た症状は、軟腐病、根腐病、腐敗病、萎凋病(いちょうびょう)、収穫時の傷、打撲、乾燥障害、湿害、生理障害、貯蔵中の二次腐敗でも発生します。

作物別に見る乾腐病の特徴

乾腐病が疑われる場合は、最初に作物名を確認してください。次に、根、茎盤部、塊茎、球根、バルブなど、どの部位に症状が出ているかを確認します。作物と発生部位を特定しない限り、適切な対策は選べません。

作物 主に確認する部位 代表的な症状 最初に確認すべき事項
タマネギ 根、茎盤部、葉、球内部 茎盤部の褐変腐敗、下葉の萎凋、枯死、貯蔵中の腐敗 育苗資材の再利用履歴、圃場履歴、定植後の発生時期
ジャガイモ 塊茎 表面の陥没、内部の黒褐色腐敗、ミイラ状の乾燥、白色かび 収穫・選別時の傷、種いもの健全性、貯蔵条件
ニンジン 根部 黒変、しみ状病斑、亀裂、乾いた腐敗 土壌条件、発生部位、病斑の広がり方、類似障害の有無
シンビジウム 根、バルブ、葉、蕾、花 根の褐変腐敗、バルブ表面の黒褐変、葉基部の黄化褐変、蕾や花の落下 鉢・用土・資材の衛生状態、腐敗病との違い

タマネギ乾腐病の特徴と対策

タマネギ乾腐病は、主にフザリウム菌によって起こる土壌伝染性病害です。根や茎盤部から腐敗が進み、下葉の萎凋、黄化、枯れ込み、生育不良、枯死につながります。収穫時には外観上の異常が目立たなくても、貯蔵中に腐敗が進む場合があります。

タマネギ乾腐病で確認する症状

  • 根が褐変し、健全株よりも少なくなっている。
  • 茎盤部が褐変または腐敗している。
  • 下葉から萎凋、黄化、枯れ込みが見られる。
  • 生育が遅れ、欠株や枯死株が増える。
  • 収穫後または貯蔵中に球の腐敗が進む。

タマネギ乾腐病の対策

  • 育苗衛生を見直す:再利用したセルトレイ、遮根シート、育苗資材が発生源になる場合があります。新品の使用、十分な洗浄、地域の指導に基づく消毒を検討します。
  • 健全苗を使用する:根や茎盤部に異常がある苗を本圃へ持ち込まないことが重要です。
  • 圃場履歴を確認する:過去に多発した圃場では、同じ管理を繰り返さず、土壌病害対策を見直します。
  • 高温条件と栽培管理を確認する:発生時期、作型、マルチ栽培、地温、肥培管理を確認します。地域の試験結果を全国一律に当てはめてはいけません。
  • 農薬は登録内容を確認する:使用する場合は、作物名、対象病害、使用時期、使用方法、希釈倍数、使用回数を最新の登録内容で確認します。

典型的な間違い:発病株を見つけてから薬剤処理だけで解決しようとすることです。腐敗した組織は回復しません。育苗資材、苗の健全性、圃場履歴、栽培条件を同時に確認しなければ、翌作でも被害が繰り返されます。

ジャガイモ乾腐病の特徴と対策

ジャガイモ乾腐病は、塊茎の腐敗として問題になる病害です。塊茎表面に陥没した病斑が現れ、内部が黒褐色に腐敗します。症状が進むと塊茎が乾燥し、ミイラ状になる場合があります。陥没部に白色のかびが見られることもあります。

ジャガイモ乾腐病で確認する症状

  • 塊茎表面に陥没した病斑がある。
  • 切断すると内部が黒褐色に腐敗している。
  • 症状が進むと乾燥し、しわやミイラ状の腐敗が見られる。
  • 陥没部に白色のかび状物が見られる場合がある。
  • 貯蔵中に腐敗が拡大する。

ジャガイモ乾腐病の対策

  • 健全な種いもを使用する:病斑、傷、腐敗が疑われる種いもを混入させないことが重要です。
  • 収穫時の傷を減らす:掘り取り、搬送、選別、箱詰め時の打撲や切り傷は、腐敗リスクを高めます。
  • 貯蔵前に選別する:病斑、傷、軟化、異臭がある塊茎は分けます。発病塊茎を健全塊茎と混在させないことが重要です。
  • 貯蔵条件を点検する:温度、湿度、結露、通風、積み上げ方、選別頻度を確認します。
  • 別の腐敗病害を除外する:疫病による塊茎腐敗、軟腐病、傷害、二次腐敗などとの区別が必要です。

典型的な間違い:貯蔵中の腐敗をすべて乾腐病と判断することです。ジャガイモでは、複数の病害、傷害、貯蔵条件の不良が腐敗につながります。表面だけで判断せず、切断面、臭い、軟化の程度、発生時期を確認してください。

ニンジン乾腐病の特徴と対策

ニンジン乾腐病では、根部に黒変やしみ状の病斑が現れ、亀裂や割れを伴う場合があります。フザリウム属菌が関与しますが、根部の異常だけで乾腐病と断定することはできません。土壌条件、生理障害、傷、他の病害との区別が必要です。

ニンジン乾腐病で確認する症状

  • 根部に黒変またはしみ状の病斑がある。
  • 病斑部分に亀裂や割れが生じている。
  • 乾いたような腐敗が見られる。
  • 同じ圃場内で類似症状が複数株に発生している。

ニンジン乾腐病の対策

  • 圃場内の発生分布を確認する:一部だけに集中しているか、広範囲に発生しているかを記録します。
  • 排水性と土壌条件を点検する:過湿、排水不良、土壌の締まり、連作履歴を確認します。
  • 病害以外の原因を除外する:傷、裂根、生理障害、他の土壌病害との区別が必要です。
  • 農薬は登録内容を確認する:乾腐病という名称だけで農薬を選ばず、ニンジンに対する登録内容を確認します。

典型的な間違い:根が割れているだけで乾腐病と判断することです。亀裂は診断材料の一つですが、単独では病名を確定できません。病斑の色、位置、広がり方、圃場内の発生分布を記録してください。

シンビジウム乾腐病の特徴と対策

シンビジウム乾腐病は、根、バルブ、葉、蕾、花に症状が現れる病害です。根は褐変腐敗し、バルブは表面が黒褐色になり、基底部から乾腐します。葉はバルブに接する基部から黄化褐変し、重症株では萎凋や枯死が見られます。開花株では、蕾や花が早期に落下する場合があります。

シンビジウム乾腐病で確認する症状

  • 根が褐変または黒褐色に腐敗している。
  • バルブ表面が黒褐色になり、基底部から乾腐している。
  • 葉が基部から黄化褐変し、枯れ込む。
  • 生育が遅れ、草丈やバルブの肥大が不足する。
  • 蕾や花がしおれ、早期に落下する。

シンビジウム乾腐病の対策

  • 病原菌を持ち込まない:鉢、用土、育苗トレー、作業資材の衛生状態を確認します。
  • 新品資材または適切に消毒した資材を使う:使い回した資材を未洗浄のまま使用してはいけません。
  • 発病株を隔離する:異常株を健全株と混在させず、栽培施設内での拡大を防ぎます。
  • 腐敗病と区別する:乾腐病ではバルブ表面の乾腐が見られます。腐敗病ではバルブ内部の黒褐色腐敗が重要な確認点になります。
  • 農薬登録を最新情報で確認する:登録状況は変更される可能性があります。過去の資料だけで使用可否を判断してはいけません。

典型的な間違い:野菜類の乾腐病と同じ防除体系をそのまま当てはめることです。花き類では、鉢、用土、育苗資材、栽培施設内への持ち込み防止が重要です。

乾腐病と似た症状との違い

乾腐病と軟腐病の違い

乾腐病では、乾いたような腐敗、褐変、陥没、しわ、硬化、空洞化などが見られる場合があります。一方、軟腐病では、水浸状に軟らかく腐敗し、悪臭を伴う場合があります。

ただし、乾腐病の病斑に二次的な細菌腐敗が重なると、水っぽい腐敗や悪臭が出ることがあります。乾いているから乾腐病、水っぽいから軟腐病と単純に分ける判断は不十分です。

乾腐病と根腐病の違い

根腐病は、根の腐敗を中心にした広い病害呼称です。乾腐病では、作物によって根、茎盤部、塊茎、球根、バルブなどに乾いた腐敗症状が現れます。根が褐変しているだけでは、根腐病、乾腐病、別の土壌病害、生理障害のいずれであるかは判断できません。

乾腐病と収穫・貯蔵中の傷害の違い

ジャガイモ、タマネギなどの貯蔵作物では、収穫、搬送、選別時の打撲や傷が腐敗の起点になります。圃場で感染していても、収穫直後には症状が目立たず、貯蔵中に腐敗が進む場合があります。逆に、貯蔵中の腐敗がすべて乾腐病とは限りません。

乾腐病が疑われる場合の確認手順

  1. 作物名を確認する:タマネギ、ジャガイモ、ニンジン、シンビジウムなど、対象作物を特定します。
  2. 発生部位を確認する:根、茎盤部、球内部、塊茎、根部、バルブ、葉基部などを確認します。
  3. 腐敗の状態を観察する:乾いた腐敗か、水っぽい腐敗か、陥没、しわ、空洞化、白色かび、悪臭があるかを確認します。
  4. 発生時期を記録する:育苗期、定植後、生育中、収穫直後、貯蔵中のいずれで症状が現れたかを確認します。
  5. 圃場・資材・貯蔵履歴を確認する:連作、過去の発生、排水性、育苗資材の再利用、種苗の由来、収穫時の傷、貯蔵温湿度を確認します。
  6. 専門機関へ相談する:必要に応じて、地域の農業改良普及センター、病害虫防除所、農協、種苗会社、専門機関に確認します。
  7. 農薬登録を確認する:農薬を使用する場合は、作物名、対象病害、使用時期、使用方法、希釈倍数、使用回数を最新の登録内容で確認します。

乾腐病を放置してはいけない理由

  • 収量低下につながる
    生育中に発病すると、活着不良、萎凋、枯死、欠株が生じ、収量低下につながります。
  • 貯蔵ロスが拡大する
    収穫時に軽症でも、貯蔵中に腐敗が進み、選別ロス、廃棄率、出荷損失が増える場合があります。
  • 次作へ持ち込む恐れがある
    種いも、苗、球根、鉢、用土、育苗資材、圃場残渣などを介して、次作へ病害を持ち込む場合があります。
  • 誤防除による損失が生じる
    作物と病害を特定せずに資材や農薬を選ぶと、効果が得られないだけでなく、登録外使用や不要な投資につながります。

乾腐病に関する課題と注意点

課題1:外観だけで病名を断定しやすい

乾腐病は、褐変、陥没、乾いた腐敗、しわ、空洞化などの目立つ症状があるため、写真だけで判断されやすい病害です。しかし、似た症状は軟腐病、根腐病、腐敗病、傷害、生理障害、二次腐敗でも発生します。

正しい判断:作物名、発生部位、内部症状、発生時期、周辺株、圃場履歴、貯蔵条件を確認してください。写真は診断の補助であり、確定診断ではありません。

課題2:作物ごとの原因菌と防除体系を混同しやすい

乾腐病という同じ名称が使われても、タマネギ、ジャガイモ、ニンジン、シンビジウムでは、関係する病原菌、侵入部位、発生時期、防除方法が異なります。

正しい判断:対策は必ず作物別に検討してください。別作物で有効だった薬剤や資材を、そのまま流用してはいけません。

課題3:発生後の薬剤処理に偏りやすい

乾腐病で腐敗した組織は回復しません。発病後の薬剤処理だけに期待すると、育苗資材の汚染、種苗の異常、圃場履歴、排水不良、収穫時の傷、貯蔵環境の問題を見落とします。

正しい判断:健全種苗、衛生管理、圃場管理、収穫・選別、貯蔵管理を一体で見直してください。

乾腐病に関するよくある質問

乾腐病の原因はフザリウム菌ですか?

フザリウム属菌が関与する乾腐病は多くあります。ただし、乾腐病という言葉だけで原因菌を一つに決めることはできません。対象作物、発生部位、症状、発生時期を確認する必要があります。

乾腐病と軟腐病は見た目で区別できますか?

乾腐病では乾いた腐敗や陥没、軟腐病では水浸状の軟化や悪臭が見られる場合があります。ただし、二次腐敗が重なると区別しにくくなります。外観だけで断定してはいけません。

乾腐病が発生した株や塊茎は回復しますか?

腐敗した組織は回復しません。発病株や腐敗した塊茎を健全な個体と分け、原因に応じて衛生管理、圃場管理、貯蔵管理を見直す必要があります。

乾腐病に使える農薬はありますか?

使用できる農薬は、作物名、対象病害、使用時期、使用方法によって異なります。乾腐病という言葉だけで農薬を選ばず、必ず最新の農薬登録内容を確認してください。

写真だけで乾腐病か判断できますか?

写真は症状を整理する補助資料になりますが、確定診断には不十分です。作物名、部位、内部症状、発生時期、栽培履歴、貯蔵履歴を確認し、必要に応じて専門機関へ相談してください。

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