農業用マルチ(マルチ)とは
農業用マルチとは、畝や地表面をフィルム、紙、ワラなどで覆う資材、またはその栽培方法です。
農業現場では、ポリエチレン製などのマルチフィルムが広く使用されています。
マルチの主な目的は、雑草の抑制、土壌表面からの水分蒸発の抑制、地温の調節、泥はねの軽減などです。
色、材質、光の透過・反射特性によって作用は大きく異なります。
例えば、低温期に地温を上げたい場合は透明マルチが候補になります。
高温期に地温上昇を抑えたい場合は、白黒マルチや反射性を持つマルチなどが選択肢になります。
「マルチを敷けば地温が一定になる」という理解は誤りです。
農業用マルチの主な役割
雑草の抑制
黒マルチなど遮光性の高い資材は、地表へ届く光を減らし、マルチ下の雑草発生や生育を抑えます。
一方、透明マルチは光を透過するため、雑草抑制を主目的とする用途には適しません。
植え穴やマルチ端部から発生する雑草まで完全に防げるわけではありません。
雑草抑制効果は、フィルムの遮光性、敷設状態、雑草の種類などによって変わります。
土壌水分の蒸発抑制
マルチで土壌表面を覆うと、地表からの水分蒸発を抑えることができます。
乾燥しやすい条件では、土壌水分の急激な変化を抑える手段になります。
ここでいうのは土壌表面からの蒸発です。
植物の葉などから水分が失われる蒸散とは区別する必要があります。
また、マルチは水を供給する資材ではありません。
不透水性のフィルムで畝を覆う場合は、降雨や頭上からの散水が根域へ入りにくくなるため、
敷設前の土壌水分と、マルチ下の灌水・かん水方法を合わせて考えます。
地温の調節
マルチによる地温への影響は、フィルムの色や光学特性によって異なります。
透明マルチは日射を透過しやすく、一般に地温上昇効果が大きくなります。
黒マルチは遮光による雑草抑制に適しますが、夏季の地温上昇を防ぐ資材と一律に考えることはできません。
高温期に地温上昇を抑えることを優先する場合は、白黒マルチ、銀黒マルチなど、
太陽光の反射を利用する資材が候補になります。
実際の地温は、季節、日射、土壌水分、畝形状、フィルムと土壌の密着状態などでも変化します。
地温対策は、色だけで判断しないでください。
高温障害が問題となる時期には、作型と地域条件を含めて選定します。
泥はねと土壌表面の保護
マルチで地表を覆うことで、降雨や灌水による泥はねを減らせます。
果実や下葉が土で汚れることを抑える用途にも利用されます。
泥はねによって広がる病害のリスク低減に役立つ場合はありますが、
マルチそのものが病原菌の侵入を防ぐわけではありません。
病害対策として効果を一括して説明するのは不適切です。
定植・栽培作業の省力化
あらかじめ植え穴を設けた有孔マルチや、株間の目印を付けた製品もあります。
栽植間隔が決まっている作型では、穴あけや位置決め作業を減らすことができます。
使用後の回収作業を減らしたい場合には、生分解性マルチも選択肢になります。
生分解性マルチは、栽培終了後に土壌へすき込み、土壌中の微生物による分解を利用する資材です。
分解速度は製品、温度、土壌水分、微生物活性などの条件によって変わります。
農業用マルチの種類と選び方
| 種類 | 主な用途・特徴 | 選定時の注意 |
|---|---|---|
| 透明マルチ | 日射を透過し、地温を上げたい栽培で利用されます。 | 光を通すため、雑草抑制効果は期待しにくくなります。 |
| 黒マルチ | 遮光による雑草抑制を主目的として広く利用されます。 | 夏季の地温上昇を必ず抑える資材ではありません。 |
| 白黒マルチ・銀黒マルチ | 表面の反射性を利用して、高温期の地温上昇抑制などを図ります。黒色層は遮光による雑草抑制に利用されます。 | 反射率や地温抑制性能は製品によって異なります。 |
| シルバーマルチ | 反射光を利用し、有翅アブラムシなど特定の飛来害虫の飛来抑制を目的とする製品があります。 | すべての害虫を防ぐものではなく、農薬や防虫ネットなどの代替になるとは限りません。 |
| 生分解性マルチ | 栽培終了後に土壌へすき込み、微生物による分解を利用することで回収・処理作業を減らせます。 | 分解時期や耐久期間は製品と圃場条件によって異なります。生分解性と植物由来は同じ意味ではありません。 |
| 紙マルチ | 紙を主材料としたマルチで、雑草抑制などを目的とする製品があります。 | 耐水性、強度、分解性、使用方法は製品ごとの差が大きいため、仕様を確認します。 |
| 高機能マルチ | 有孔、位置表示、特殊な光学特性、地温調節などの機能を付加した製品群です。 | 「高機能」という名称だけでは性能を判断できません。必要な機能ごとに製品仕様を確認します。 |
マルチ選定で失敗しやすいポイント
高温期の露地栽培で「雑草を抑えたい」という理由だけから黒マルチを選ぶと、
根域の温度条件が栽培上の制約になることがあります。
地温上昇が問題なら、白黒マルチなどを含めて比較する必要があります。
反対に、低温期の地温確保を優先する作型では、反射性の高い資材が目的に合わない場合があります。
色ではなく、「地温を上げたいのか、抑えたいのか」を先に決めます。
もう一つ見落とされやすいのが水管理です。
マルチによって土壌表面からの蒸発は減りますが、必要な水分まで自動的に確保されるわけではありません。
フィルムの透水性、植え穴、降雨、土壌水分、マルチ下灌水の有無まで含めて判断します。
使用後の処理
ポリエチレンなどを使用した一般的なプラスチック製マルチは、
栽培終了後に回収し、地域の処理方法に従って適正に処理します。
圃場への放置や不適切な処分は行いません。
生分解性マルチは一般的なポリエチレンマルチとは扱いが異なり、
対象製品の使用方法に従って土壌へすき込み、分解させます。
「生分解性だからどのような状態でもすぐ消える」という意味ではありません。